忘れたはずの恋
「大丈夫?」

ロリータお母様が吉永さんを連れて行った後。
僕は藤野を起こした。

「ありがとうございます」

立ち上がった藤野が手で顔を覆う。

「…だから早く別の家庭を築きたいんです」

本当に小さな声が僕に聞こえた。

「父も母も嫌いではないですが…特に母。
僕はどこか母のマスコットみたいで…」

それは藤野が可愛いからだろうけど。
でも、干渉し過ぎなのは感じる。

「僕は万能ではありません。
みんなの理想を叶える力もない。
でも周りがそれを求めるなら、出来るだけ沿うようにはしたい。
…そんな中、ほんの少しだけ、安らぐ場所が欲しいんです」

それが吉永さんなんだ、藤野の場合。

「僕だって辛い…結果出したかった。
その上できちんと認めて欲しかった。
吉永さんが少しずつ僕に興味を持ってくれている事は途中からわかってた。
…ただ、このままズルズルといくのは彼女が可哀想だ。
僕は何と言われても良い。
でも、この年の差は彼女が悪く言われる。
まだ僕、未成年だし」

ウンウン、そうだね。

「藤野」

後ろから相馬課長の声が聞こえる。

「今回は残念ながら結果は出なかった。
でもな、今後、二人がきちんと結果を残したらいいだけの話だ。
俺はまた藤野から良い結果報告を聞きたいと思っている」

相馬課長、中々やりますね〜。

「…簡単に気持ちを切り替えられるなら苦労しません」

そう言うと藤野はマシンの片付けを始めた。



「で、いつまでスネてるの?」

やがてお母様と吉永さんが帰ってくる。
藤野は二人をわざと無視しているがお母様はその隣で仁王立ちだ。

うざったいのか

「もう、何も言わないでよ」

蹴散らそうとしているが…。
お母様、能面みたいな顔をしてじっと藤野を見つめる。

「あ、そう。
そんな態度を取るの。
じゃあ、もう彼女の事は完全に忘れるのね?」

藤野は一瞬手を止めて頷く。
もうー。
そんなに意地を張るな!

「ふーん、じゃあこーちゃんの同期入社の人に彼女を盗られてもいいのね?」

藤野はマシンを止めて、お母様を睨む。
見兼ねたメカ担当が藤野からマシンを取り上げる。

「はあ?なんで?」

「諦めるんでしょ?
だったら盗られても仕方がないじゃない?」

お母様、地雷をお踏みになられましたね。

藤野が顔を真っ赤にして震えている。

「こーちゃん。
あなたが勝手に彼女を賭けて、本当にツマンナイ負け方をして。
彼女はね、今日のレースで自分の限界を超えてみせたこーちゃんが凄く眩しくて…。だからこーちゃんの勝ち負け関係なしにこーちゃんと付き合いたいって言ってくれているのよ?」

ロリータお母様。
まともな事を言った!

「あなたの事を理解しようとしてくれる、数少ない人なのよ。
わかる?
そんな人を手離すの?
こーちゃんの気持ちはそんな浮わついたものなの?」

その瞬間、藤野は吉永さんを思いっきり抱きしめていた。

「本当にごめんなさい。
素直じゃなくて…イジワルしてごめんなさい」

「…こちらこそ、ごめんなさい」

「僕、早く大人になります。
吉永さんに呆れられないように、頑張ります」

藤野、吉永さんを抱きしめ過ぎ。
さっきから苦しそう…。

「はいはい、そこまでー!!」

祥太郎君の声でようやく解放された吉永さん。
大きく息を吸っていた。

「続きはこれからいくらでも出来るだろ?早く片付けて!!」

藤野はゆっくりと顔を上げた吉永さんを見て。
あの優しい笑顔を向けた。
吉永さんもそれを見て、微笑む。



これで、この二人は大丈夫。
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