忘れたはずの恋
「で、彼女はなんて言ってるの?結婚するとかそんな事、ちゃんと了承しているの?」

おお…痛いところを突くね。

「結婚したい、とは最初に言ったよ」

うん、それは言った。

「で、彼女は?」

充、そんな目で僕を追い込まないでよ。

「…微笑んでた」

「へえー、軽く拒否だな」

あー!!言うな!!

「どうしたらいいと思う?」

あまり恋愛経験のない充に聞くのもなんだけど。

「…それよりどうして幸平がそんなに結婚に焦るの?
ライダーとしても社会人としてもまだまだこれからなのにさ?
俺はそこが聞きたいね」

そんな事を聞かれても…ね。

「多分、彼女は不安がっていると思うけど。
若い幸平が焦れば焦るほど、彼女を追いつめるんじゃないかって思って」

だって…と充は僕を見て微笑む。

「余程の理由がないと、幸平みたいな若い、しかも…言い方は悪いと思うけど身分も不安定な奴と結婚しようなんて30過ぎの女性が思うわけがない。
幸平は確かにイケメンだけど、それ以上に何がある?
ちょっとバイクを早く走らせる事が出来るだけじゃないか」

…撃沈。

そっか。

僕は自分の気持ちしか考えてなかったけど…葵は本当はどう思っているんだろう。

充と話してから今までどこかにあった自信が音を立てて崩れそうな気がした。

「おい」

充の声でふと我に返る。

「大丈夫か?」

「うん」

僕は微笑んだ。

でも、心は…。

ほんの少しだけ遠くに飛んでいた。

今すぐ、会いたいって…。

でもでも!!

会って話をして…って何を話すの?

僕の事をどう思っているの?って聞くの?

ああ、今になってなんだか…

不安だらけになるなんて。
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