猪の目の酸化還元反応
会場から少し奥まったところにある小さな裏庭へ、猶助が止まったので雉歳も止まる。


楽しげな音が遠い。



「夢鼓さん、俺は貴女が好きだ。」



暗がりでも分かるのは、猶助の真剣な表情だけ。



「県さん、私は……」


「分かっている。貴女が旦那を愛していることは。」



告白やアプローチを断り続ける理由はハッキリした。



「身体が消失したとしても形に残らないものだからこそ、そこに存在する想いは消滅しないから。」




時計の針が左へ回らないように、創の過ごした時間が想いが増えることはあっても、減ることは雉歳にとってあり得ないから。



「そこまで分かっていて、どうして…」


「言わずに諦めようかとも思ったんだけど、知れば知るほど誤魔化しきれなくなった。」



数伸に付けられた、アガケというあだ名みたいに。



「応えなくていいから、貴女を好きでいていいか?」



時に無情、刻は有情。


叶わなくても、敵わなくても、正々堂々としていたかった。



「何だか優しさに付け込んでいる気がするんですけど。」



答えに応えられないとハッキリ言える、雉歳の方が優しいと猶助は思うのだった。
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