金魚鉢には金魚がいない
 父の帰りが遅くなったころ、たまに会う父の姿はどことなく頼りなく、不安気で、それでも母の体調を気遣っていた。

 「パパね、毎日仕事が終わると池袋や渋谷なんかに出て、ゆかりの写真片手に探してるの。ママの事責めたって不思議じゃないのにね…あの人は、誰のせいでもない事だって。ただ、ちゃんと生きていてくれればそれでいいって。」

 家族なのに、どうしてこんなにうまくいかなぃのだろう。

 そして母が言ったことばは、その時、いや今でも私の胸を刺す。


  「ママ、母親失格かな…」
私は堪え切れずにリビングを出た。
 母の前で泣くわけにはいかなった。
 ただ、いつだって気丈な母にそんな事を言わせた姉が許せなくて、悔しさだけが牙をむくように喉元を刺した。


 せめて誰かのせいにできたらどんなに楽だろう。
 家族の肩書きをおろして心底憎めたらどんなに楽だろう。
 私はベッドにつっぷして枕に顔を押しあて声を殺して泣いた。
 夏が終わり、秋が近付き私はもぅすぐ姉の誕生日がくる事を思い出した。。。
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