恋愛セラピー
プロローグ
色とりどりの花が植えられた、素敵な庭。外国にいるような気分になれて、私はその場所がお気に入りだった。
青春時代の多くを過ごした、たくさんの思い出が詰まったその場所。
「わあ、満開だね。私、この香り好きなんだ」
その庭の一角に咲く、紫色の花を咲かせるそれに顔を近づける。
初夏の日射しが、私の肌に降り注ぐ。大分夏らしい気候になってきた。日射しを浴びた腕が、ジリジリと熱くなる。
そんな私の身体に、ふわりと薄いパーカーがかけられた。
「日焼けしちゃうよ。皐月さん、すぐ赤くなっちゃうでしょ。それ着てて」
「え、大丈夫だよ。自分が着たほうがいいよ」
Tシャツの袖から伸びる腕は、私なんかよりよっぽど細くて白い。
私の隣に立った彼の顔を見上げると、彼は私を制して微笑んだ。
「俺は男だから、平気。皐月さんが着て」
優しい笑顔に、少しドキッとしてそれを隠すようにパーカーを羽織る。
あれ、なんか少し男っぽくなったかな。こないだまで同じくらいの目線だった気がしたけど、成長期だからかな。
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