恋愛セラピー
ジュニパーベリーの涙、グレープフルーツの幸福

「古賀ちゃん、お疲れー」


その日、最後の手術を終えて手袋を外していると、一緒に手術入っていた岩田先生が私に声をかけてきた。


「お疲れ様です」


ペコッと頭を下げて、着ていたガウンを脱ごうとする私に、岩田先生は顔を近づけてくる。


なにかと思って身構える私に、岩田先生は思いのほか真面目な顔を向けてくる。こんな顔を見せるのは、麻酔をいれているときだけかもしれない。


「古賀ちゃん、今日さ……飯、付き合ってくれない?」


いつものふざけた口調ではない、真剣な声音に驚いて目を丸くする。いつもデートだのなんだのと軽口を叩かれてはいたけど、こんなふうに本当に誘われたことはない。


「ちょっと話があるんだよ。だから、頼む」


いつもとギャップがありすぎるその真剣な様子に、ついついコクリとうなずいてしまう。


うなずいた私を見て、ホッとしたように笑った岩田先生が裏口で待っているから、と言い残して離れていく。


それを見送ってからガウンを脱ぎ捨てて、仕事を終わらせるべく片づけを始めた。


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