現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
……ああ、そうだ。

研磨機を使っている時はとても神経を使うから、研磨し終わった後は必ず一息入れる。
その時に私は軽い休憩がてら、必ず部品を隅々まで確認するんだけれど、いつも部品を見ながら思うんだ。

私、よくここまで削れるようになったなあ、って。
よく頑張ったなあって。

ひとり、現場を希望して叶うまでに五年。
そこから二年かけて先輩達に厳しく鍛えてもらって。
その成果がようやくこの部品に表れている。

それがとても嬉しくて。

……でもまさかそれが顔に出ていたなんて。


しかも岡田さんに見られていたなんて。


「よく、見てますね」

「そりゃあ、すごく気になっていたからね。里緒奈の笑顔が見たくて、毎回工場に行くのが待ち遠しかったよ。意を決して君に話しかけて、で、いまこうやって一緒にいる」

岡田さんは、私を抱きしめた。
久しぶりの他人の熱に、一気に心拍数が上がってしまう。

「お、岡田さ……」

「俺は、いつになったら里緒奈の彼氏になれるのかな……?」

エンジンを切っていて、車内は外気温とさほど変わらないくらい寒く冷えていたはずなのに、岡田さんの体温と、甘い言葉にむしろ暑く感じてしまうほどだ。

「まだ、考えられない?」

「……っ、それは……」

身体を離そうとしても、身体に力が入らない。
まるで魔法にかかったかのように、身体を動かせない。

やがて、岡田さんは私から身体を離すと、頬に手を当てる。
優しく撫でるように、つつつ、と唇へと下りていく。

「唇、柔らかいね。……食べてもいい?」

そう言うと、怪しい笑みを浮かべる。
その笑みを見た瞬間に、全身がぞわりと粟立った。

けれどそれは怖いからではなく、岡田さんのその笑みが想像以上に色っぽくて。
自分の「女」としての本能が反応したのだった。


いつの間にか、岡田さんのもう一つの手は私の手を握り、岡田さんの顔の近くに寄せられている。
生暖かい吐息がかかりながら、岡田さんは私の顔をなぞることを止めない。

心臓は激しいくらいに脈打ち、頭もぼおっとしていく。

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