正しい男の選び方

「楽しい?」

浩平が葉子の顔を覗き込んで訊いた。

ドクン

葉子の心臓が大きく波打つ。
こういうのは不意打ちだと思う。肩が触れ合うほどの至近距離で、こっちをむいて人なつこい顔を向けられると、何でもないのに心臓が跳ね上がってしまうではないか。

楽しいか、だって?
葉子は、さっきから、永遠に続いて欲しいと思ってるぐらいフワフワした気分になっている。
……違う、「さっきから」なんかじゃない。今朝、エンジンの爆音が聞こえたときから、今日はずっとフワフワした気分だ。

「……まあね」

葉子が渋々認めると、浩平は顔をほころばせた。



「さてと……戻りますか」

「え?」

「そろそろ行こうと思ってるけど、札幌に戻っていいかな?」

お昼を食べた後、しばらく海を見ていたが、浩平はついに葉子を促した。

「……そうだね。戻った方がいいね」

しょんぼりした声になっていた。それから車に乗り込んで、札幌まで戻る。
来た時と同じように素晴らしい景色が見えていたはずなのだが、さっきまで感じていたワクワクとした気持ちはだいぶしぼんでいた。


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