スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「コーヒーの香りの強いこの店内で、よく紅茶を楽しめるね」
しまった、と思った。
何度もこのお店に来ているのに、加納がわたしの注文に不満を持っていたことを、今まで気付かなかった。
「そうですね。すみません。わたし、何も考えてなくて」
「謝ることじゃない。ただ、コーヒーの香りに紅茶の香りが呑まれてしまうから、この店では紅茶が十分に楽しめないだろうと思ってね」
「次からわたしもコーヒーにします。コーヒーもたくさんの種類があるから、悩みそうだけど」
「ベネズエラ」
「え?」
「ベネズエラを選ぶといい。苦味も酸味も少なく、初心者向きだ。きみはあまりコーヒーを飲まない。要するに、飲めないんだろう?」
「は、はい。あまり、その……」
「でも、これから先、社会人になれば、好むと好まざるとを問わず、コーヒーを飲む機会は必ず訪れる。今のうちに慣れておくに越したことはない。
次の機会には、ベネズエラを試してみてほしいな。優しい味わいだから、きみもきっと気に入る」
女なら誰もが振り返るほどの美貌が微笑んで、冷静で紳士的な口調がわたしの間違いを正していく。
加納はいつだって明確な理由付きの答えを持っていて、完璧なんだ。