スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


加納が苦しげな表情をしている。

現実感がないほど、左右対称のきれいな顔で。


「きみが思っているよりもずっと、ぼくは愚かな人間なんだ。失敗も後悔も重ねてきた。

今、いちばん後悔しているのは、あのとききみを手放したことだ。失って初めて、きみの存在の大きさに気付かされた」


「でも、わたしは……」


あなたの理想にはついて行けない。

どうしようもなく苦しかった。


「過去は過去だ。ぼくたちはもう学生じゃない。それぞれ社会人としての経験を積んで、成長してきた。今なら、あのころよりもっとわかり合えるはずだ」


あれから幾人もの女性と付き合ってきた、と加納は言った。

長く続く女性はいなかった。

みんな怠惰で、努力しようとせず、加納は失望して縁を切った。


加納の婚約者は美しいけれど、知識と教養がまったく足りていないそうだ。

加納が求めるレベルの会話は、ひとつも成立しない。

加納が読書や習い事を勧めても、笑ってごまかすばかりで、まじめに向き合おうとしない。


「きみだけなんだ。ぼくの理想に届かないまでも、つねに努力をして、ぼくに応えようとする。そんないじらしい恋人は、今まで、きみしかいなかった」


「だけど……もう、婚約が成立しているんでしょう?」


「今ならまだ間に合う。破棄できる。彼女が決定的な嘘をついていた」


「嘘?」


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