スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


こういう音楽スタジオには、高校時代に何度か来たことがある。

合唱コンクールや文化祭の練習のために、バンドをやってた子たちに誘われて、一緒に演奏してみた。


ということは、十何年ぶりだっけ?

あのころ行ってたスタジオはタバコの匂いがしてたけど、ここは清潔そのものだ。

飲食禁止とか禁煙とか遅延禁止とか、細かいルールのポスターが壁に貼ってある。

機材の使い方のざっくりとした説明も掲示されている。


音楽の授業以外で鍵盤にさわるのは久しぶりだ。

休日も仕事に追われて、家の居間に置いたピアノを弾く余裕がない。

マスターの機材と電子ピアノの電源を入れて、鍵盤に指を置く。

とん、と軽く押さえてみたら、いい手応えだった。


「これ、かなり上等なやつだ」


本物のピアノによく似た感触。

合成された電子音も、ちょっと離れたスピーカーから聞こえてくるという点を除けば、違和感がない。


椅子に浅く腰掛けて、足下のペダルを踏みながら、指慣らしをしてみる。

不意に弾きたくなったのは、母が好きだからわたしもいちばん好きな曲、リチャード・クレイダーマンの『渚のアデリーヌ』。


発表会では、小学2年生のころに弾いた。

ハ長調から始まって、二短調、ト長調の澄んだ和音が旋律を成して、またハ長調に落ち着く。

この上ないほど素直な起承転結の構成の主題は、幼いわたしの耳と感性にも、優しく美しいと感じられた。


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