スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


音楽の授業では、わたしは4月からずっと、らみちゃんが無意識にジャズを演奏してしまうことに悩まされていた。

スウィングされると、ほかの子どもたちがついて行けない。

でも、スウィングしちゃうのは、らみちゃん自身も止められないらしくて。


解決策は、頼利さんが苦肉の策で言い出した「メトロノームごっこ」だった。

読んだとおりの楽譜のままで音を出す、メトロノームみたいな演奏の仕方もあるんだと、頼利さんはらみちゃんに教えた。


学校の授業では、誰がいちばん上手にメトロノームになれるか、競争するんだよ。

そんなふうに誘導して、らみちゃんの負けず嫌いなところを引き出して、合奏を成立させることができた。


音が合うと、らみちゃんも楽しかったらしい。

メトロノームごっこもいいね、と元気に笑っていた。

去年のらみちゃんの音楽の成績を知ってる先生方からは、今日の合奏ではどんな魔法を使ったのかと、本気で驚かれた。


頼利さんが、グラスのお茶を一息に飲み切った。

ゴクリと動く喉仏の形がきれいだ。


「楽しそうで何よりだ。チビどもの演奏は邪気がなくて、何かいいんだよな。おれも好きだ。何もなけりゃ聴きに行きたかったんだが」


「来ると思ってたのに」


「バカ、行けねぇよ」


「お仕事ですか?」


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