スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


笑って騒ぐこと数分間。

ライヴハウスのオーナーさんとおぼしきおじいちゃんが出てきて、そろそろお開きだと告げた。

らみちゃんの就寝時刻のこともあるし、素直に解散する流れになる。


狭い階段を抜けて、地上に出る。

夜の更けた平日の飲み屋街は、いっそ静かと言ってよかった。


「ライリ、先生、駐車場まで競走!」


らみちゃんが頼利さんの手を離して、パッと駆け出した。

わたしは慌てて後を追い掛ける。


「待って、らみちゃん! 暗いから、ひとりで行っちゃ危ないよ!」


肩に食い込む通勤バッグが重い。

らみちゃんは20メートルくらい向こうの自動販売機の前で体ごと振り返って、にーっと笑った。


唐突に、肩に振動を感じた。

バッグの中に入れているスマホが、地上に出て電波を拾って、新着通知のバイブを作動している。

いや、振動が続いているから、電話の着信かもしれない。


不意に、ザワッと寒気がした。

なぜ、と説明できない。

ただ、わたしは何かを直感して、狭い車道の向こう側を見た。


「……加納【かのう】、さん……?」


操作中とおぼしきスマホを手にした男が、まっすぐに、わたしを見ていた。

スーツ姿は見慣れない。

だって、わたしが彼と会っていたのは、お互いが大学生のころだったから。


彼がスマホの操作を止めた。

バッグの中で震え続けていたわたしのスマホが、ピタリと静かになった。

電話をかけてきていたのは、彼だったらしい。


「久しぶりだね」


彼が、笑った。


< 86 / 240 >

この作品をシェア

pagetop