スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


加納幸雅【かのう・ゆきまさ】。

わたしが大学時代に付き合っていた人。

1つ年上で、大学は違うけど同じ教育学部で、ボランティアサークルを通じて知り合った。


どうしてあなたがここにいるの?

こんな時刻に、こんな場所に?


「メールでの予告どおり、迎えに来たよ。きみと話がしたい。

きみとともに過ごした日々が、最近、否応なしに脳裏に蘇る。ぼくにはきみが必要なんだと、今さらながら気が付いた。

迂遠なぼくを許してほしい。どうかぼくと一緒に来てくれ」


加納がわたしへと歩み寄ってくる。

両眼が暗がりに光って見えるのは、光彩の色が薄いせいだ。

上等そうなスーツ、つやつやした靴、響く足音。


わたしは動けない。

加納の言葉は頭の中を素通りしていって、理解が追い付かない。


返事をしなきゃいけない。

だって、わたしがテキパキ答えられなかったら、加納は苛立つ。

怒りを顔に出すわけじゃなく、冷たい目をしてわたしを見据えて、ぼくの質問が難しかったかなと猫撫で声で言う。

つまり、この程度の受け答えもできないほど愚かなのか、と。


疲れたんだよ。

わたし、あなたの望む完全な理想には、ついていけない。

だから離れたんだよ。

わたしじゃ無理なんだよ。


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