二度目は誠実に
本気で願ったわけではない。その場の成り行きでつい言ってしまった今となっては大失言だ。

そのことは忘れてとお願いしたはずなのに、なぜここで出してくる?

沙弓は拓人をじろりと睨む。だけど、丸い目の沙弓の睨みには凄みがない。拓人はそんな沙弓にニッコリと笑いかける。


「俺としてもさ、忘れるように努力はするけど、忘れてしまって、約束をなかったことにされても困るからね」


「大丈夫です。お願いされたことは私もちゃんと覚えていますから」


「なら、良かった。とりあえず、このファイルは谷に託すよ。課長のスケジュールと出席するべき会議や提出すべき資料などの文書やメールを印刷したものを閉じてある。課長があれ? 出したっけ? と聞いてきたら、すぐ答えられるようにして。谷ならファイルなんてなくても記憶していられると思うけど」


「いえ、課長のことまで記憶しておくスペースは私の脳にはありません。だから、これは助かります」


沙弓の言葉に拓人は笑い、ファイルを渡す。
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