二度目は誠実に
なんでかと聞かれてもなんでだろう? と拓人自身も思う。だから、答えることは何もない。

沙弓はそんないい加減な答えで納得出来なかったけど、深く聞くつもりはない。興味があるとか誤解をされても困るからだ。

とりあえずもう駅には着いた。ここからは別のホームへ行けばいい。

「お疲れさまでした」と沙弓は拓人から離れて、先に改札へと向かう。ちらりと見た電光掲示板によると、沙弓の家の方面へいく電車は五分後が発車予定となっている。

拓人は沙弓を見送ってから、自販機で缶コーヒーを買う。拓人が乗るべき電車はたった今ホームから出発していた。

すぐに次の電車は来るが、急ぐこともない。いつもより時間は遅くても、家に帰ったら、風呂に入って寝るだけだ。冷たい缶コーヒーを一気に飲んで、近くのゴミ箱に捨てる。

ホームに行くと、向かいのホームに沙弓の姿があった。手でも振ろうかと手を少しあげるが、その時に沙弓側の電車が入ってきた。電車に遮られて沙弓の姿を見失う。

乗ったのかも分からないが、出発したあとのホームに沙弓の姿がなかったから、乗車したのには違いない。
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