二度目は誠実に
一方沙弓はといえば……同じように反対側のホームに来た拓人に気付いた。だけど、視線を下にずらして気付かないふりをした。

電車が入ってくる直前、手をあげかけた拓人の姿が目に入る。中途半端に止まる手に思わず笑いそうになったが、こらえて拓人から見えないように乗車し、背中を向けて端に立った。

多分拓人からは見えていないはず。しかし、中途半端に手をあげた拓人のおかしな格好を思い出し、口元を緩ませていた。

嫌いだと思うのに、なんで私は笑っているのだろう。嫌いだと思う相手なのに、転ばないようにと捕まれたときにドキッと心臓が跳ねていた。

すぐそばにあった顔は真剣な眼差しだった。沙弓は真剣な顔に弱い。へらへらと笑う顔よりも真面目な顔のほうが好きだ。

だから、拓人にせめて真面目な顔をしたらいいのにと思った。

思ったところで何にもならないし、拓人が真面目になったから、好きになるわけでもないのは分かっている。

嫌いなものは嫌いだ。嫌いだと思った気持ちは、そう簡単には変わらない。
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