二度目は誠実に
「いえ、一人で帰れるので次の駅で戻ってください」


「俺が送りたいんだからいいんだよ。遠慮なんかしないでいいから」


沙弓はカバンを返してもらおうと手を出すが、拓人はしっかりと持っていて離さない。拓人にはハッキリと言わないと伝わらないのかもしれない。


「大石さんといると疲れるんです。だから、もう帰ってください」


「えっ? そんなにも俺といたくないの?」


沙弓はこくりと頷いた。拓人はがっくりと肩を落として持っていたカバンを沙弓に渡す。


「分かった。でも、本当に気を付けてよ。途中でなにかあったら、すぐに電話して。あ、それから無事着いたら連絡ちょうだい。じゃ、気を付けてね」


拓人は次の駅で降りて、沙弓に手を振ったが、沙弓は軽く頭を下げるだけだった。

本気で心配してくれていたのに申し訳ないという気持ちはあったけど、拓人がいなくなって安心した気持ちのほうが大きかった。

帰宅して約束通りに帰ったことのメッセージを送るとすぐに良かったと返事が来る。

拓人との距離感にこの日の夜は悩んだが、その後お互いに忙しいこともあり、ほとんど話をするどころか顔を合わせることなく、二ヶ月ほどの時が過ぎた。
< 60 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop