二度目の初恋
すると時任さんはバツが悪そうに目を細め立ち上がる。

「昨日は・・・ごめん」

時任さんが私に頭を下げる。

「え?・・・あの・・・時任さん頭上げてください」

近寄ってあたふたする私に時任さんは話を続ける。

「円にとって初めてのデートだから思い出に残るようにと
演出したのに最後に酔って眠って
 円を一人で帰らせてしまって・・・
結果、最悪のデートにさせてしまった。本当に申し訳なかった」

時任さんは頭を下げたまま顔を上げようとしない。

「時任さん。顔を上げてください。最悪なデートだなんて思ってません」

時任さんがゆっくりと顔を上げると同時に私は話を続ける。

「昨日のデートは夢の様でした。
 素敵なドレスに綺麗な夜景・・・美味しい料理とー」

と言ったところで言葉が詰まる。

本当は時任さんに見つめられてドキドキして昨日のデートが疑似デートだと言うことも

忘れてしまう程で・・・

だから本物のデートじゃないことを思い出したときは

胸が締め付けられる様な思いだった。

だけどそれは口に出してはいけないこと。

「円?」

次に出てくる言葉を探しているとすかさず時任さんが私を呼ぶ。

「と、とにかく楽しかったです。私の為にあんなにも楽しませていただけて
時任さんが謝る必要なんて全くないんですよ」

なんとかごまかせたけど

時任さんはまだ納得できない様子で表情は沈んでいた。

「いや・・・でもあれは男として大失態だよ・・・」

義理でやってもらっていることなのに

時任さんにこんな残念な表情をさせたくない。

だって余計自分が惨めになるのだから・・・

やっぱり今言うべきだ。
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