イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「──おっ、マーケ部の木下ちゃんだ」
煙たい喫煙所の中、俺の隣りに立っていた同僚の平野がどこぞに視線をやりながらつぶやいた。
すっかり短くなったタバコを灰皿に押し付け、俺も同じ方向に目を向ける。
「んー? なに、どのコ?」
「ほら、今社食から出て来てエレベーターの方に歩いてる……背ちっちゃい三つ編みのコ」
「ああ、あれ?」
フロアの隅に位置する喫煙所のガラス越しに、平野の言う『木下ちゃん』の姿を確認する。
あ、隣りにいるの、佐久真さんじゃん。異動してから全然顔合わせることなくて、最近話してねぇなあ。
「やっぱかわいーよなぁ木下ちゃん。彼氏いんのかな~」
「あ? なに平野、ああいうのが好みなの?」
「めちゃくちゃタイプ。いかにも女の子女の子しててちっちゃくてふわふわでやわらかそうなの! ちょっと困った顔してるときが1番かわいいんだよな~」
「ふーん」
小さくなっていく背中を『おまえは変態か』とツッコミたくなるほど名残惜しそうに見つめている同僚に対し、俺の反応は我ながら冷めたものだ。
たしかにまあ、ちらっと確認できた横顔は遠目に見てもかわいかった。
そのうえ庇護欲を煽る小ささで、纏う雰囲気もふんわりしていて、本人に似合う流行の服を着こなしていて。
でも。
「俺はああいうおとなしそうなゆるふわ女子より、多少女らしさに欠けてても張り合いがあっておもしろい女の方がいいけどね」
2本目のタバコに火を付けながら、俺はそう言って口角を上げる。
するとなぜか平野が、無言で呆れたような視線を向けてきて。