イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「あ? なんだよ」

「尾形全然やさしくないのに……めっちゃ肉食系なのに……こんなんが『さわやか王子』って、世の中間違ってる……っ」

「はー? 仕方ねーだろ、そのあだ名は宇野さんが勝手に引き継いでったんだから」



つい2、3ヶ月前に九州支社へ転勤して行ったばかりの先輩の顔を思い出しつつ、俺は苦い表情で答える。

まあ、あの人はまさに『王子』の呼び名にふさわしい人だったな。同性から見ても美人だと思える上品に整った顔立ちで、物腰もやわらかくて。

……ただ、仕事は鬼のように厳しかったが。あんなにイイ笑顔でドSな指示を出してくる人を俺は宇野さんと出会って初めて見た。



「な、尾形って今彼女いないんだっけ? もったいぶってねぇで社内での競争率下げるためにさっさと作れよ。おまえモテるんだから、どうせ女引っかけまくりの入れ食い状態なんだろー?」

「ヒト聞き悪いこと言うな。モテるのは否定しないが」

「あーーー!! ムカつくッ!!」



タバコ片手に真顔でのたまったら案の定平野がキレた。そんなこと言われたって、そこそこイケてる顔とおつむと運動神経に産んでくれた両親のおかげで昔から女に困らなかったのは本当なんだから仕方ない。

……まあ、約1名まったく引っかからなかったヤツもいるけど。



「とりあえず、俺が狙ってるコには尾形おまえ絶対手ぇ出すなよ!? つーか半径5メートル以内に近付くな!!」

「それって、さっきの木下サンとか?」

「そう!!」



やたら鼻息荒く迫ってくる平野を、俺はタバコを咥えたまま呆れ顔で一瞥。



「俺のタイプでもねーし、出さねぇよ。そもそも社内恋愛とかメンドクサイ」

「ぐあああそれ!! その余裕がムカつく……!」

「……どうしろって言うんだよ」



昔からデリカシーがないとか口が悪いとは散々言われてきたし自覚もしているけど、もはや何を言ってもバッシングされそうな今の状況に本気でげんなりする。

その後も同僚の理不尽な言葉の暴力を受けながら、昼休みは過ぎていった。
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