イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「えっと、実は私の父方の祖父が、沖田重工の現代表取締役なんですけど」

「え?! 沖田重工!?」



驚きの声を上げる彼にこくりとうなずく。国内でも大手のゼネコンである沖田重工の名前は、やはり尾形さんも知っていたらしい。



「私の父は、どうやら母とは駆け落ち婚だったみたいで……そのせいか特にずっと父方の親戚とは疎遠だったので、私も大きくなるまでまさか自分のおじいちゃんがあんなに大きな会社の社長さんだとは思ってもみませんでした」

「……へー……」

「それであの、沖田重工は代々世襲で社長が決まるんですけど、家を出た私のお父さんを除くと次の跡継ぎはお父さんの妹である叔母しかいなくて。お婿さんをもらった叔母は夫婦揃って取締役になることがもう決まってるんですけど、残念なことに、結婚してからもずっと叔母たちの間には子どもが授からなかったんです」



説明しながら、この話を誰かにするのは初めてだからちょっと緊張してしまう。

私は伝えるべきことを頭の中で整理しながら、ゆっくりと話し続けた。



「このままだと、家督を継ぐべき沖田の直系の血が途絶えてしまう。そう考えたおじいちゃんが勘当したはずのお父さんに会いに来たのが、私が高校2年生だったときでした」

「………」

「おじいちゃんは私の存在を知って、びっくりするくらい真剣に頼み込んできたんです。私がそれなりに社会経験を積んでからでいいから沖田の姓に入って、おじいちゃんが選んだ会社を継げる力量のある男性とお見合いしてお婿さんをもらってくれって」

「………」

「あんまりおじいちゃんが必死で、しかも当時から私には将来あたりまえに恋愛する自分が想像できなかったので、結構すんなりその話におっけーしちゃいました。お父さんは怒ってましたけどね」
< 97 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop