ジャスティス
門と玄関までの中程では先程羨ましいと思っていた犬が顔を上げてこちらを見ていた。



「すごく大きな犬ね」



真子が言うと、由良は足を止めて犬の方を向いた。



「父が番犬が欲しいって譲ってもらったのだけど、すごく大人しくて番犬にはならないのよ」



クスリと笑ってチュッチュと口を鳴らすと寝転んでいた二匹はサッと立ち上がって由良の前に走ってきて座った。

頭を撫でられ気持ち良さそうに顔を上げて目を細める犬達。

真子は優しそうに犬を撫でる由良に思わず見とれていた。

見られていることに気付いた由良が真子に気付き顔を向けると、また柔らかな表情で微笑んだ。

何度か喋ったことはあったが、あまり深く関わったことはなかったが由良に対して悪いイメージはもとより全くなかった。

寧ろ桐山家の人々は近所からの悪い噂もなく、誰もが腰が低くて礼儀正しいと言われるほどだった。



真子は一瞬で羨ましく思った。

大きな屋敷に庭、そしてそれを飾ることなく自然でいて、こんなにも柔らかく微笑む姿が似合う由良が。



犬から手を離し、また歩き始めた由良の後ろ姿を真子はじっと見つめた。



一日だけでいいから代われたらいいのにな。



そう思わずにはいられなかった。
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