ジャスティス
回覧板を入れたあとも真子は門の中を覗き、寝転ぶ犬を見ていた。



あの犬のように好きなときに寝て、こんな素敵で広い庭で遊び回れたらなんて幸せなんだろうか。

そう思うと溜め息が出た。





「綾瀬さん?」



背後から聞こえた自分を呼ぶ声に驚き振り返ると、そこには桐山家の娘の由良が立っていた。

斜め後ろには使用人と思わしき男が一緒に立っている。



「うちに何か御用でしたか?」



透き通るような柔らかな声で、由良は微笑んだ。



「あ、あの回覧板を持ってきたので入れておきました」



門の中を覗きこんで不審に思われただろうか?

急に声をかけられたこともあり、真子は上ずった声で返事を返した。

そんな真子に由良は何とも思っていないのか、持っていた箱を少し持ち上げて言った。



「ケーキを買ってきたんです。よければ一緒にどうですか?」



何度か喋ったことはあったが、そんなことを言われたのは初めてで、真子は焦ったように首を振った。



「いえ、そんな!私は回覧板を持ってきただけなので」



そう言ったが由良はまた微笑んだ。



「それなら何個か貰ってくれませんか?いっぱい買いすぎてしまったの」



困ったように言った由良に、真子は断りきることができなくなってしまった。



「でも、本当に貰ってしまってもいいの?」



「私一人では食べきれないから、貰ってくれたら助かります」



「それじゃお言葉に甘えさせてもらいます」



真子がそう言うと由良は門に近づいた。


自動的に門が開き、体が入るくらいまでに開くと由良は隙間からスルリと入り、振り返った。



「どうぞ」



付いてきて、と促され真子も同じように門を潜り庭に足を踏み入れた。

前を歩く由良のあとを追うように付いていくと、先ほどまで由良の後ろにいた使用人は、お辞儀をして真子が先に行くのを待った。

三人が入ると自動的に門が閉まり、鍵のかかる音がした。
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