ダブルベッド・シンドローム
未来







私は結局、その後いつものように慶一さんと帰ることとなったのだが、なぜそうなったかというと、それは彼が、私に用事があれば仕事を早く終わらせる必要がなかったらしく、私が社長室から出て、そしてエレベーターの前で立っていたところに、ちょうど仕事を終えた彼と遭遇したのであった。

用事は終わったんですかと尋ねられて、ずいぶんと挙動不審に、「たった今」と言った。


彼と車で帰る間、私はずっと「さあ」とか「ええ」とか、口の中の空気を抜くだけのような話し方をするしかなくて、彼は随分と首を傾げていたのだが、私はこの、爽やかな慶一さんが、今も桜さんに対する疑問を抱えたままでいるのだと思うと、とてもいつもの世間話などできなかったのだ。


話を切り出すとしたら、それは今この車の中ではないのだが、しかし家に着いて、それからだとしてもいつ切り出すべきなのか、全く段取りをつけることなどできなかった。

場所を移すことも考えたのだが、食事をしながら話すことでもないように思えた。

食事をしながら話すことはないにしても、なぜか私は、今日の夕食は、ホットプレートで焼肉をすべきだと心に決めていた。

彼もそれでいいと言ったので、そうしたのだが、ついにその間に言い出すことはできず、いつものようにお風呂に入り、ベッドに潜った。


不思議であった。


ダブルベッドに入って、彼の手が私の髪を撫でたとき、自然と、「ああ、今なんだ」と思ったのだ。


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