ダブルベッド・シンドローム
「分かりました。私も社長に聞きたいことがあったので、ちょうど良かったです。お会いします。」
私の返答に、専務は、顔を歪めた。
今まで、私から社長にアプローチをしたことはないのである。
社長が強引に話を決め、それを勧められるままに私が承諾する、あるいは、専務に要望を伝え、社長がそれを実現する、今まではそういうやり方で、私と社長は繋がっていた。
それが、私から社長へ直接矢印が向かうことは、このときが初めてであったのだ。
専務はきっと、それが解せなかったのだ。
「聞きたいこととは?会社のことですか?」
「いいえ、私のことです。社長はまだ会社ですか?私からお伺いすればいいんでしょうか?」
「あ、いえ、僕から連絡します。」
専務は寝室へ移動して、電話をし始めた。
ドアを挟んで漏れてくる声を聞いていると、彼は父である社長に対しても敬語を使っていた。
そういえば、今まで、私がそのことに気づかなかったということは、専務から社長に話しかけることは、少なかったということである。