ダブルベッド・シンドローム
「菜々子さんは何も心配しないで下さい。今までどおり、総務部で頑張っていただければと思います。もし嫌がらせがエスカレートするようであれば、僕が何とかします。」
「専務・・・。」
会社での対応とはまるで違う、頼もしく変わった専務の言葉に、私は少しだけ笑ってしまった。
社長からのお叱りは随分と堪えたようである。
それを必死で挽回しようとする専務の姿は、まるで出来の良い子供のようであった。
社長に尽くす専務の態度には嫌気がさしていたはずであったが、しかし今回の、お互いを愛する努力をすると誓いあった後のそれは、とても可愛らしく思えたのだ。
「菜々子さん?なぜ笑うんですか?」
「何でもないです。それじゃ専務、よろしくお願いしますね。頼りにさせていただきますから。」
私は、トランクケースに詰めていた荷物を、もう一度タンスに戻す作業を始めていた。
専務は手伝おうとする仕草を見せたが、私の服や、化粧品が溢れているのを見ると、すぐにその手を引っ込めた。
私はまた面白くなって、専務の肩をペシンと叩いた。
「専務、今日はご飯どうします?」
「・・・あ、菜々子さん、それなんですが、今日これから、社長が会いたいと言っていました。」
「え?」
「謝罪をしたい、と。」
「そ、そんな、社長はいいのに・・・」
「いえ。僕の不手際ですし、菜々子さんは会社での問題にまきこまれてしまったわけですから、父も謝罪をしたい、と。その後、菜々子さんのご両親にもご説明をし、謝罪に伺いたいとのことでした。もちろん、僕もですが。」
専務はさらさらとそう説明したが、私の両親にも謝罪する、というところで、少しだけ声がかすれていた。
伏し目がちになり、彼がまた子供のように、怯えながらお説教を待っているのかと思うと、私は、慰めてあげたくなった。
私はこれ以上専務を責める気などなく、また会社での件も、すでに先程の専務の言葉で相殺となっていたのだ。
私は、私の両親のところまで、彼らを謝罪に行かせる気は毛頭ないが、とりあえずそれは黙っておいた。