それは薔薇の魔法~番外編~
薔薇の宴会と旅人の歌
なぜ嫌だと思う時間はすぐに来てしまうんだろうと思う。そして嫌な時間はなぜこうも過ぎるのが遅いのかとも思う。さっさと終わってくれ切実に。
顔面に無表情という名の笑顔を張り付けて来る人来る人に「婚約の場に来ていただいてありがとうございます」と機械的な挨拶をしていく。声に抑揚がないのは見逃してほしい。こちとら顔に笑みを張り付けるのでいっぱいいっぱいなんだよ。
わたしは病弱であまり人前に出られないということになっていたからここに来る人たちも初めて見る人ばかりだ。それだけは疎ましく思っていた正妻に感謝してもいいかもしれない。日々こんないやらしい目で見られることになっていたかもしれないと考えると悪寒が止まらない。
そういえばわたしが嫁ぐという好色じじいともさっき会った。見た目もさることながら目つきが、こう、舐めるような感じで鳥肌が立った。ナメクジが肌を這っているような感じがして気持ちが悪かった。
ここにいるよりは嫁いでから逃げたほうが監視の目も緩くなって成功率が上がるはずだと思っていたけどあれを目の前にして本能があいつのところになんて行きたくないと叫ぶ。触れられるとか無理、我慢ならない。
となると必然的に逃げるのはわたしがあいつに嫁がされるまでの道のりになるんだけど、これもまた確率が…いや、人間為せば成るはずだ。綿密に計画を練ってできると信じるしかない。