クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
駅までの歩道を、ふたりで並んで歩く。
忙しく色を変える信号やら、車のヘッドライトやらと、あちこちに光が点灯している。
パラパラとすれ違うくらいで、人通りは多くない。
まだ、肩を抱いたままの八坂さんの手を、そっとはがしながら口を開く。
「今、さっきの人たちが戻ってきたらどうしましょうか」
笑いながら言うと、八坂さんは、手のことについてはなにも言わずに、ふっと笑う。
「穏便にすませなくてもいいなら、俺にもケンカくらいできる」
見ると、八坂さんは前を向いたまま淡々と答える。
「だいたい、俺ひとりだったら、相手がふたりの時点でなにかしら武器持ってくし。それでまず不意打ちで足潰して、逃げ道塞いで上乗ればどうにでもなるだろ」
「……八坂さんが言うと、本当にしそうで怖いです」
鉄パイプ的ななにかで足をガツンと痛めつけたあと、馬乗りになってガンガン殴りつける八坂さんの姿が浮かび、ぶるりとする。
強面だから、本当にしそうだ。
「さっきの、いつから見てたんですか?」
「あいつらがめぐを突き飛ばして棒だのなんだの言ったあたり。声がでかいから遠くまで聞こえてたし」
たしかに、あのひとたちの声は大きかった。だから余計に怖かったなぁと思いながら、隣を歩く八坂さんを見上げた。
「八坂さんも、あのコンビニはよく使うんですか?」
「ああ、週に一度は寄るな」
「じゃあ、少しの間、井村さんのこと、気にかけてあげてください。あの元彼、ガタイがよくて怖いと思うので」
微笑みながら「私は、来週半ばにはもう、戻るので」と続けると、八坂さんは真顔のまま私を見た。
そして、しばらくそうしたあと、何も言わずに目を逸らす。
きちんと返事はしなくても、聞こえていたなら問題ない。
八坂さんは顔は怖くても優しいから。
面倒だなんだって口では言いながらも、きちんと気にかけてくれるハズだ。