クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


コンビニ事件があった翌日の夜。会社に面した大通りに井村さんの姿があった。
十九時半を回った空は、もうすっかり暗く、信号の明かりが眩しい。

井村さんは、ふわふわしたカットソーにデニム生地のショートパンツ、髪はポニーテールという、カジュアルな格好だった。

倉沢さんでも待っているんだろうか。
そう考えながら近づくと、井村さんは私を確認してにこりと笑った。

「あ、瀬名さん。お疲れ様ですー」
「こんばんは。倉沢さん待ちですか?」
「いえ。瀬名さん待ちです。昨日のお礼にと思って」

井村さんが、片手に持っていたビニール袋を持ち上げる。

「今日から発売になったデザートなんですけど。駅の近くに公園あるじゃないですか。だだっ広いだけで、遊具もなにもないところ。あそこで一緒に食べません?」
「いえ、お礼してもらうほどのことはしてませんし……」
「いいじゃないですか。もう買っちゃいましたし。ね」

笑顔の井村さんに、少し戸惑ったあと、うなづいた。


公園は、今日も無人だった。
日中にこの公園の前を通ったことがないけれど、ちゃんと賑わってるのか心配に思う。

いつか、倉沢さんと座ったベンチに腰かけると、井村さんがビニール袋からデザートを取り出す。

マンゴープリンパフェに、ビターチョコティラミス、カボチャのモンブランケーキ、ベークドチーズケーキのベリーソース添え……。

次から次へと並べられるデザートに驚いていると、井村さんは「お好きなのいくつでもどうぞ!」とニコリと言う。

「じゃあ……すみません。いただきます」

チーズケーキをとると、井村さんは「どれにしようかなー」と楽しそうに悩んだあと、モンブランをとる。
そして、食べながら、なんとなくお互いのこれまでの話になった。



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