クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「じゃあ、その両替は、広田さんが戻ってきたら教えてもらって。明日から瀬名さんはいないんだし、支店内で助け合って乗り切ろう」
小さく頷く星さんに課長があまりに安心した笑みをこぼすから、それを見て私も笑ってしまった。
結局、お昼休みを終えて戻ってきた広田さんが両替の操作を教えた。
バツが悪そうに歪んだ表情はともかくとして、きちんと頼むことのできた星さんを見て、吉川課長が嬉しそうに目を細めていたのが印象的だった。
「課長、あのあと胃薬飲んでましたよ」
くっくと喉を鳴らしながら言うのは北岡さんだ。
支店長のおごりで開かれた送迎会。
〝主役なんだから〟と真ん中に座らされて、右隣には北岡さん、左隣には倉沢さんが座っていた。
出席人数は、十五人ほど。
預金課以外とはほとんど関わりがなかったのに、よく出席してくれたなぁと思う。
座敷の大部屋の中、それぞれが数人のグループを作って盛り上がっていた。
歓迎会とか送迎会なんて銘打っても、中身は普通の飲み会だ。
星さんは、いつも広田さんの悪口を言っている職員と、端っこで飲んでいた。
さすがに、広田さんの話題じゃないといいなと願う。
気の弱そうな吉川課長が、せっかくああ言ったのに、響いていないんじゃ可哀想だ。
「どこで見てたんですか?」
吉川課長と星さんがやりとりしていたとき、フロアに北岡さんの姿はなかった。
だから聞くと、「書庫で」と返事をされた。
書庫っていうのは、預金課のあるフロアの一番奥の部屋だ。
現金庫や、今年度の書類の綴りがしまってある場所で、支店のなかで一番厳重な施錠がされる場所だ。