クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「金曜の伝票をまとめてたんです。そしたら、なんかおもしろいことが始まったから」
「……楽しんでますね。北岡さんが両替を教えてくれてもよかったんですよ?」

苦笑いで言うと、「人聞きが悪いですね」とニヤッとした笑みを向けられた。

絶対楽しんでたな、この人。

「私が教えたってなんの解決にもならないと思って、心苦しくなりながらも見守っていたんです」
「……へぇ」
「まぁ、よかったんじゃないですかね。ああ言ったからって仕事の速さが劇的に変わるわけでもないでしょうから、長い目で見てって話ですけど。第一歩は踏み出せたみたいだし」

北岡さんは、ビールをぐいっと飲みながら言う。
相変わらず飲みっぷりがいい。

「北岡さんの負担も、少し軽くなればいいんですけど」

冷奴をつまみながら言うと、北岡さんはふふっと笑った。

「大丈夫ですよ。なにかあったときのために恩着せてるつもりでやってるので」

耳打ちされた言葉に、まったくこの人はすごいな……と呆れていると、「でも、明日から寂しくなります。瀬名さんいないと」と急に話題を変えられた。

「一緒に働いたのはたった二週間でも、いなくなっちゃうのは結構寂しいものですね。瀬名さんの方は、すぐにうちの支店のことなんて忘れて、次の相手に乗り換えちゃうんでしょうけど」

「……なんだか言い方に悪意がありませんか」

ビッチみたいな言い方をされ苦笑していると、逆サイドから倉沢さんが話しかけてくる。

「俺も本当に寂しい。ねー、瀬名ちゃん、本当に帰っちゃうの? もううちの職員になっちゃえばいいのに」

見れば、眉を寄せて駄々っ子みたいな表情の倉沢さんがいて、思わず笑ってしまった。

少し前、〝瀬名ちゃんのこどもになりたい〟みたいな発言をされたときには、正直引いたけれど。
こうして見ると、手のかかる弟みたいで可愛くないこともない。

今度好きになった人とは、うまくいけばいいなぁと思う。



< 151 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop