クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「いえ。倉沢さん待ちです」
「え。俺……?」
待ち伏せされる理由が思いつかないからか、不思議そうにキョトンとする倉沢さんに、持っていたビニール袋を差し出す。
倉沢さんは尚も訳がわからなそうな顔をしながら「これ、俺に?」とビニール袋を受け取り、中を見た。
「コンビニケーキですけど、意外とおいしいですよ。デート三昧で舌の肥えてそうな倉沢さんが満足してくれるかはわかりませんけど」
コンビニで買ったのは、二種類のケーキだ。
ショートケーキっぽいのと、チョコケーキ。
好みがわからなかったから、無難なふたつを選んだ。
「なんで……」と呟く倉沢さんが私を見るから、首をかしげる。
なんでって。だって。
「誕生日なんでしょ?」
誕生日にケーキを渡すことが、そんなに不思議だろうか。
そう疑問に思うほど倉沢さんが驚いているから、続ける。
「大人になると〝誕生日なんて〟って適当に扱いがちですけど、やっぱり、せっかく一年に一度しかない日なら、嬉しいほうがいいじゃないですか」
私がここに派遣されたのはたった二週間だ。
その間に誕生日を迎えるのも、なにかの縁だろうし、誕生日だって知ってしまったのになにもしないのも、なんとなく嫌だった。
「叱られたままなんて、可哀想なので。お誕生日、おめでとうございます」
呆然としたままの倉沢さんに、にこりと笑いかける。
暗くなった空の下。支店の看板が会社のコンセプトカラーである、青と白の明かりを放つ。
倉沢さんは、しばらくぼーっとしたあと、くしゃりと顔を歪め、ビニール袋をぎゅっと握った。