クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「……いえ。すみません。言い過ぎたかもしれません。今のは私の個人的意見なので、気にしないでください。
せっかくの誕生日なのに、お説教みたいになってしまってすみません」
そうだ。せっかくの誕生日に、課長に怒られて可哀想だなってケーキを買ったのに。
これじゃあ、振り出しだ。
言ったことは本心だけど、今言うことじゃなかったかもしれない。
反省して「私の独り言だと思って流してください」と言うと、倉沢さんは「流さない」とすぐに返した。
見ると、にこっとした柔らかい笑みを浮かべた倉沢さんと目が合う。
「俺は馬鹿だけど、俺のこと思っての言葉かどうかくらい、わかるよ。だから、今の瀬名ちゃんの言葉は全部嬉しかった。誕生日プレゼントとしてもらっておく」
綺麗な笑顔で言われ……一瞬、声がつまった。
色々お説教みたいなことを言っちゃったけど、倉沢さんがこんなに素直に聞き入れるなんて思っても見なかった。
〝ふぅん。まぁ、考え方なんて人それぞれだしね〟くらいに、笑って交わされるだけかと思ってたのに……意外だ。
驚いて、目をパチパチとしていると、倉沢さんが、食べ終わったケーキのプラスチックケースをビニール袋に入れながら聞く。
「さっきの。自分でもひくくらい泣いたって話」
「え……ああ、はい」
私も、残りひとくち分になったケーキをフォークに刺していると。
「その相手って、八坂さん?」
急にそんなことを言われ、動揺から手が止まった。
何も言えないまま、視線も動かせずにいる私の手を、倉沢さんが上から握る。
そして、それを自分の方へ持って行くと、フォークの先に刺さったケーキをぱくりと食べた。
その行為に思わず顔を上げると、ニッと口の端を上げる倉沢さんと目が合う。
口の端にわずかについたクリームを、唇からのぞかせた舌先で舐め取った倉沢さんがニヤリと瞳を細める。
蛇に睨まれたカエルって言葉が無意識に頭のなかに浮かんでいた。