彼岸花。
「あの」


僕が言うと、2人がこっちを見た。


「僕、今日でバイト...辞めさせていただきます」


「...え!?」


花ちゃんが驚いた顔でこっちを見た。


「...どうしてやめたいの?」


輝さんの真剣な眼差しが、僕の胸を刺す。


「僕は...前に進まないといけないんです...」


こんな、身勝手な理由なんか、許されるんだろうか。


...許されるわけが...。


「...分かった!」


輝さんがそう言うと、僕の方へ歩いてきて


手のひらにポンと手を置いた。


「...はいっ。今までお疲れ様、ありがとう。


またいつでも飯食いにおいで!」


手のひらを見ると、飴が1つあった。


それは、いつもバイトが終わった後に僕と花ちゃんにくれるものだった。


「輝さん...。本当にありがとうございました。


輝さんにはたくさんお世話になりました」


「おう!今度、飲みにでも行こうな!」


身勝手な僕に、最後まで優しい輝さんには、本当頭が上がらない。


「...花ちゃんも、ありがとう。...それじゃあ、失礼します」


僕は後ろを振り返らずに店を出た。
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