きたない心をキミにあげる。


「…………」



「あいつによって助けられた命なのに、俺、何考えてるんだろうって苦しかった。最初は弘樹の分まで生きなきゃって思ってたはずなのに、愛美を好きになるにつれてどんどん本当の自分の気持ちが分かってきて……」



ぽたり、と芝生にしずくが落ちる。


死んだ魂たちが前後左右から俺をにらみつけている。



松葉杖を両手から離し、ぐしゃりと前髪をつかんだ。



痛む右足なんてどうでもよかった。


足の一本や二本、いや。やっぱり弘樹が生きていればよかったんだ。俺が死ねばよかったんだ。



「こんな自分知るくらいなら、愛美に出会わなければよかった。こんな汚い心を持ってる自分が憎い。嫌い。気持ち悪い。でも、愛美が好きでどうしようもなくて」



「圭太」



急に愛美はポニーテールを揺らし、振り返った。



メガネと指の隙間から見えたのは、

彼女が、芝生に倒れた松葉杖を手にした姿。



そして――



「うっ!」



それを俺の右足に思いっきりたたきつける映像。



痛みが全身へとめぐり、目の前の彼女にもたれかかることしかできない。



「……っ!?」



愛美は倒れかけた俺を支え、頬に片手を添えてきた。



真っ赤な唇が、俺の唇に重ねられた。



その瞬間、心臓が止まってもいいと思えるくらいに全てが満たされる感覚がした。



ふわりと離れた瞬間、

俺も彼女に思いっきりキスしていた。



「ん……っ」



これじゃ足りない。彼女のすべてが欲しい。



そう思ったが、唇とともに体も勢いよく離される。



彼女の目から光の粒がこぼれたのが見えた瞬間。


右足の激痛が体に回り、視界が急に落下していった。


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