きたない心をキミにあげる。







愛美がいなくなってから。


俺は時々、1人で弘樹のお墓参りに行っていた。



毎回、駅前の花屋でどれを買ったらいいか迷った末、結局は定番の菊の花だけを買い、霊園へと向かう。



たくさんの同じようなお墓が並ぶ芝生を進み、彼のお墓へ。



これは、ゴールデンウィーク明けくらいのことだったろうか。




「あれ?」



前に俺が来た時から花が変わっていた。


カラカラになって風に吹かれていたのは、菊だけではなかった。


元々は色とりどりだったはずの花のようだ。



きっと、愛美も、ここに来たんだ。



持ってきた菊の花と取り換え、線香をたく。


右足の痛みをこらえながら、ゆっくりとその場にしゃがみこむ。



「いて……っ」



あの事故からおよそ半年が経った。


俺の足は完治する、はずだった。



普通に2本の足だけで歩けるようになり、日常生活には問題がない。



だけど、しゃがむ時や、急に力を入れる時に、つんと痛みが走る。



軽い後遺症が残った。


俺は、これで良かったと思っている。


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