きたない心をキミにあげる。



「別に前みたいに首絞めにきたわけじゃないから。お礼言いに来ただけ」


「え」


「ありがとう。今日。足そんなんなのに来てくれて、家にも呼んでくれて。……またここに来てもいいかな?」


「うん。母さんああいう性格だから、迷惑とか思ってないし。別に俺も」



「圭太」



急に名前を呼ばれ、あっけにとられてしまう。


俺はなぜか袖からちょこんとはみ出ている彼女の指を眺めていた。



やべ。どこ見てるんだ俺は。



「って呼んでいい?」


「え、いいけど」


「いいの? 年下に呼び捨てにされてるんだよ。それとも『あんた』の方が……」



「圭太でいいから! ……愛美」



ようやく俺は彼女を名前で呼ぶことができた。


声が裏返らないか心配だったけど、自分でも驚くほどに落ち着いた声を出していた。



一瞬だけ、弘樹の微笑みが頭に浮かんだ。


彼は毎日、こういう風に愛美と接していたのだろうか。



「じゃ。おやすみ、圭太」



やっと愛美は部屋を出て行ってくれた。



パタンと扉が閉まる。


ふぅと息を吐き、再びベッドに転がった。



って電気、消してってくれよぉ。





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