新・鉢植右から3番目


 無言だったけど。でも確認しているのだ、桜の居場所を。ちなみに、私の居場所は確認されていない。私はドアの影に隠れてじーっと夫を観察していたから確かだ。やつは本から目を上げて桜を無表情で見詰める。そして娘が一人でうーとかあーとか言いながらオモチャを口にくわえて涎と共に転がっているのをしばらく見詰め、また本に戻るのだ。妻である私を捜したりはせずに。

 ・・・私は、ここですよん。そんなことを物陰に隠れながら、私は心の中で呟いたりしてみた。やっぱり興味がなくなってしまったのかしら・・・。それとも傷付いてから、私から離れようとヤツもしているのだろうか・・・。あううう。

 そんな拗ねたようなことをする割りには、未だにヤツには触れられたくないぞ症候群の中を漂っている私は、ヤツが読書をしている時の私の定位置であるヤツの膝に、頭をのっけることなど出来ないのだった。

 やれることなら今すぐしたい。

 スタスタと歩いていって、ゴロンと転がり、ヤツの膝の上に頭をのっける。そして亀のぬいぐるみである玉姫を抱き寄せて目を瞑る。ヤツはまた面倒臭そうに私を見下ろしてため息をつくだろう。だけど、苦情も言わずにそのままでいさせてくれる。──────────それが、どうしても出来ない。

 想像しただけで、嫌悪感が背中を駆け抜けるんだもん!

 くそう、遠いぜ夫が!

 娘、おめーはいいよな、やつに近づけるんだな!

 そんなことを生後5ヶ月の桜に思ってみたりもした。


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