まさか…結婚サギ?

聖なる夜

そして、いよいよやって来た…12月24日
由梨の家で会って以来、貴哉は忙しくしていたので、会うのはひさしぶりとなっていた。

ひさしぶりに会える、そしてクリスマスイブとあう恋人たちの一大イベントだという認識が緊張もしつつ、浮かれてるといえば浮かれていた。
服はワンピースだし、すこしかしこまった所にもいけるシンプルなものだし、ベージュのコートも同じくシンプルなデザインだ。

親の受けのよい貴哉は、この日を由梨と一緒に過ごしたいと、母に告げていたのだ!
これまでの行動で、貴哉をすっかり信頼していた両親は二つ返事でにオッケーを出していた。親の許可つきの外泊デートなんて本当におかしな話だと思う。

おかげで、下手な嘘やごまかしなしで済んだと言うことに由梨も助かってはいたけれど。

貴哉はこの日の夜をあけるためにかなり、頑張って仕事をしてきたと聞けば、由梨はじんとしてしまう。

この日午後診と翌日は由梨は夏菜子たちに、にやにやとされたが、無事に休みをとることが出来た。

小さめのバッグと、お泊まりセットの入った鞄を持って由梨は貴哉の連絡を待っていた。

貴哉の会社の近くのcafeでチョコレートモカをのみながらスマホをついつい見てしまう。

そして…6時…。
普段なら絶対にまだまだ仕事の時間であるが、貴哉からの電話が鳴る。
「終わらせたから、迎えに行くよ。近くにいる?」
「はい、近くのcafeにいますよ」

電話を切って少し待っていると、いつものようにスーツ姿が素敵な貴哉の姿が目に飛び込んでくる。

「お待たせ」
「仕事…お疲れ様でした」
「うん、ありがとう」

cafeを出て貴哉に連れられて歩くと、さすがにあちこちでイルミネーションが灯されていてクリスマスムードが漂っている。
寒い夜の中に、人工的だけれど美しい光の景色を見ていると、普段なら『きれい』くらいで済むところ、感動してうるうるとしてしまうのは、隣に素敵な‘’彼‘’が一緒に歩いているからに違いなく。
こんな時に表す言葉としてはロマンティックというのがぴったりとはまる。

「なんだか…これまでは、キリスト教でもないのにクリスマスを祝うなんて馬鹿らしいと思っていたけど…」
貴哉はそこで言葉を切って由梨を見た。そのイルミネーションの光を映した瞳が綺麗すぎて、どくんと鼓動がはねあがる。
「由梨と一緒に過ごせるなら…悪くない…」

由梨としても、こうして恋人と過ごすクリスマスははじめての経験で貴哉と同感であった。

「はい…私も、貴哉さんと過ごせてとても幸せな気持ちでいっぱいです」
「まだ会った所だけど?」
いたずらっぽく言われて由梨は遠慮なく貴哉と寄り添うように並んだ。
「だって…こんなクリスマスイブ…なんだかドラマとか…そんな感じで…」

前の勤め先では、新人で独身の由梨は休みたいなど言える雰囲気でもなくてクリスマスもお正月も、仕事をしていた。

「俺たちは気が合うよね」
「そうですね」

貴哉に連れられるままに、イルミネーションの通りを抜けて、駐車場に着くと貴哉の車に乗る。

「車…?」
「そう」

どうぞ、ドアまで開けられて由梨はドギマギしてしまう。

貴哉の車はしばらく走ると、海の見える一流のホテルに車をつけた。

ドアマンが助手席を開けてくれて、慣れたように貴哉は車を預ける。

「ここ、ですか?」
「うん」

一階にあるレストランはヘルシーフレンチで、その素敵な内装と、雰囲気がこんな所でディナーの経験のない由梨には、夢見心地の気分に座るだけでなってしまう。

「貴哉さんは…こういう所に慣れてますね…」
「まあね、ほとんどが仕事だけど」
「仕事…」
「時に、こういう店もある。って事」

貴哉に飲み物を任せるとワインが届いて、小さく乾杯をする。

店は高級だし、目の前にいるのは貴哉である。
由梨はこれまでの由梨と何も変わっていないのに、こんな風にきちんとしたデートを演出されて本当に、貴哉の特別な人になっていると、そんな気持ちにさせられる。


元カレにとって由梨は…都合のいい女だったのじゃないかと、そう思っていた。だから、ここの店が良いとか、悪いとかではなく知り合ってからずっと、貴哉は由梨の気持ちも体もそして、家族をはじめとして全てに気を使ってくれて大切にしてきてくれた。

忙しい人なのに、この日の為に店を予約したり、仕事を調整したり大変だっただろうな…。

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