まさか…結婚サギ?
何か、知らないうちに自分がやらかしたのかな、と由梨は貴哉の顔を伺う。
何となく、顔が強ばっている気がして由梨は当たり障りない言葉を告げた。
「どれも、とても美味しいです」
「本当?良かったわ。後でシェフにも伝えておくわね」

「明日、貴哉は由梨さんと志歩の舞台を観に行くんだろう?」
暎一がそう貴哉に聞いた。
(あれ、麻里絵さんと約束したはずだけどな…記憶違い?)

「そうですよ」
「お前ははじめてだろう?」
「ですね」
「妹が頑張ってるんだ。しっかりと見てこい」
「俺も行きたいな」
絢斗が言うと、
「じゃあ、お母さんと座る?当日券もあるんでしょ、志歩」
「早くいかないと無くなるかも知れないけど」
「じゃあ、私たちの方が並びますよ?」
「いいのよ。私はまた志歩に頼めるんだから。たまには並ぶのも、楽しそうで良いわね」

このセレブな人が並ぶなんてなんだかとても、申し訳ない気持ちになる。

デザートまで到達する頃には、紺野家は家族らしく色々な話を交わしていて由梨は自分が話題から外れてホっとしていた。
(何というか…付き合ってる。とはいってもこの家格の差ってどうなんだろう…)
こたつってなに?って雰囲気である。
よく貴哉は由梨の家で普通に過ごしていたなぁと思う。


ディナーの後、貴哉のバスルームに向かうと、そこは部屋のすぐ隣にあり由梨にはお嬢様が着るようなネグリジェが用意されていた。
借りたドレスはどうしようかと悩み、由梨はそのまま部屋から持って出ることにした。
昼間借りたワンピースはすでに片付けられていて、由梨は部屋のハンガーにそっと掛けておいた。
多分、姿は見てないけれどお手伝いさんがいそうだと思った。
「貴哉さん?」

由梨が部屋に戻ると、貴哉は部屋のソファにゆったりと寛いでいて、その部屋の雰囲気と、スーツを着崩しているけどどこか品のある容姿と仕草が御曹司らしくぴったり似合っている。

「ゆっくり出来た?」
「まずまず…です」
「まずまず、か」

貴哉は苦笑すると
「由梨、今日は…本当にごめん」
「どうして…謝るの?」
「家の事は何も話してなかったからね。先に話すことで…由梨がどう反応するかと考えたら、なかなか話せなかった」

「いいんです。私だって…子供みたいな、反応をしてしまって…」

「椿…って言うのは、俺たちの幼馴染みで。まぁ向こうも大きい会社の娘なんだが…、高校位だったか向こうが勝手に将来は俺と結婚するとか言い出して、親たちもそうだといいか、位の話だった。洸介は…俺が他の会社に就職したから事あるごとに嫌がらせをしてくる。だから、本当に何でもない」
「…なんでも、ない?」
「ここ何年も、会ってもいない」
貴哉の綺麗な瞳が真っ直ぐに由梨を見つめている。

それが本当なら…。由梨にとってとても心地よい言葉で…、
(私だって…過去の事を責めるほど何もなかった訳じゃない…)

そんなことを考えていたら、由梨のスマホが着信を告げた。その番号は、名前が出ない。けれど…その番号は由梨の記憶に残ったままであった。

(どうして、このタイミングでかけてくるのかな…)

「どうした?」
「…知らない、番号だから」
そう画面を見ながら言うと
「出てやるよ」

貴哉はするりと由梨の手からスマホをとると
「もしもし?」
と出た。

「…間違いだったのかな、すぐに切れたよ」
「ありがとう、貴哉さん」

由梨は貴哉が渡してくれたスマホを受け取って机に置いた。番号の相手は…由梨の元カレの白石 渉である。
終わったはずの相手からの電話なのに、なぜか心が乱された。
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