嘘つき天使へ、愛をこめて
「雅」
大翔さんに声をかけられて、俺は顔をあげる。
すると目の前に、おにぎりが二つ差し出された。
「食え。お前鏡見てねえだろ。やつれてるぞ」
「……サリに比べたらましです」
「病人と比べるな。いいから食え。サリが目ぇ覚ました時、お前のそのゾンビみたいな顔をみたら発狂するぞ」
サリが発狂する場面なんて、想像すら出来ない。
でも、あの時。
サリの元へ辿り着けなくてもどかしくて思い切り華鋼の奴を殴り倒していた時、倉庫の中から聞こえてきたあの悲痛な声は。
……多分、サリの本音なんだろう。
サリは生きたいと言っていた。
なんであたしなのと泣いていた。
好きになんかなれないと。
だってあたしは死んじゃうんだよと。
初めてサリを見た時の、あの諦めたような真っ黒な瞳を思い出す。
切なげな顔も、苦しそうな顔も、たまに見せる不意の笑顔も、忘れられない。
……ああ、そうか。そういうことか。
俺は、大翔さんからおにぎりを受け取って、じっと見つめる。
このおにぎりがいつかサリの手作りになって「美味い」と言える日が来ることを、俺は望んでいるのだ。
そういうなんてことのない、平凡な、けれど幸せな家族の日常。
俺やサリにはなかったもの。