(A) of Hearts
「ありがとうございます。ですが、どうしてここに専務が?」
「部屋から見えただけ」
「……」
ホテルを見上げても、どの部屋が自分が泊まった部屋かわからない。それなのに、わたしを見てた?
「わざわざ、すみません」
「前田が言ったこと気にするなよ」
「はい」
今朝の夢。
それから前田さんの言葉。
そして偶然なのではではなく、なにかを察して芦沢さんがここまで降りてきたこと。
「……あの。ひとつだけ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
ほんの少しだけ芦沢さんの眉が寄る。眉間に浅く皺を作った。
だけど続けて口を開く。
「専務は、わたしの知っているヒロでしょうか?」
「そんなわけないだろ」
即答。用意されていた言葉のようにも感じてしまう。
「早くコンビニ行ってこいよ」
「ホントですか? 本当に、わたしの知ってるヒロじゃないんですね?」
「しつこい」
「——申し訳ございません」
もしかしたらって。
これまで何度か思ってきたけれど…。
訊くのは、いまので最後にしよう。
「そういやヒロのこと。嫌いじゃなかったっけ?」
「嫌いですよ」
なるべく明るく答えた。
ヒロはわたしのことが嫌いだ。
それにヒロは、いまでもわたしを苦しめる。
そんなわたしがヒロのことが好きだと気づいたのは、ほかの人と付き合ってからで。