(A) of Hearts
「おっしゃる意味が理解できません。失礼を承知の上で申し上げますが、わたしが秘書を続ければ芦沢が結婚しないと言い出すとでも?」
『可能性はゼロか100が好き』
「……」
ゼロか100?
それならゼロに決まってんじゃん。
なに言ってんの。
『キミってさ? ヒロが持ってた写真の子に似てるし、なんだかんだこれまで付き合ってきた子がキミみたいな雰囲気。それだけで事実ゼロじゃないから。だからここまでしてる。それは理解できる?』
「——はい」
返事はしたものの。
それだけで、どうしてこんな。
『ま、そういうこと。だからさ、早く秘書辞め——』
「あ…っ」
わたしの手から突然携帯が奪い取られた。
顔を上げれば芦沢さんがそこに。
びっくり。
なんで。
「——専」
しっと小さい声でそういう。
人差し指で唇を押さえられてしまった。
わたしの携帯を耳に押し当てている芦沢さん。
「仕事しろよ、お前」
そして、わたしの顔を見た。
「なにやってんだ? こんなの脅迫で訴えるぞボケ」
なんか涙が出そう。
だけど我慢。絶対。
「はあ〜? ふざけんな。ゼロだゼロ。何回も言わせるな、誰がこんな奴に」
あ、わたしのことだ。
面と向かって言われると、それはそれで傷つく。でも仕方ない。
「うるさい、もう切るぞ。あとこの電話、お前の番号は着信拒否に設定しとくからな」
そして電話を切った。
黙って携帯を差し出してくる。