(A) of Hearts

♧♧♧♧♧♧


「わたし会社辞めます。いつもの専務に戻ってください」

「……」

「お願いします」


いつもの俺。
キミの目に俺はどう映る?


「いつもの俺って?」

「専務です。わたしの上司です」


その言葉に息を飲む。

いま俺はキミという支えがあったからこそ、揺るぎないチカラを発揮したいと。そう思っていたことを実感してしまった。

それをいま言葉で伝えたいけれど、口にしてしまうのはどうだろうか。これは余計な足枷か。


「眩しいな」

「専務…っっ!!」

「立派な秘書だ」

「……それは、専務のおかげです」


キミには敵わないって、また思う。

ひょっとすると失望してもらっているほうが、俺にとってはいいのかもしれないとすら思えた。


「俺はケツの青いガキと変わらない。それにもし俺のおかげだとするなら、それこそ館野のおかげ」

「ゼロと言ってください」


どうしたものか。
来月結婚を控えている身なのに。
しかも上司という立場でありながら。


「——100」


だからこそ。
今度こそ。
そんなことを思ってしまう俺は不毛か。


「なんとかするから」

「やめてください」

「俺を信頼して、ついてきてくれないか?」


ふたたび出逢ってキミの気持ちを知ってしまったいま、手放したくないって強く願う。それで俺に失望してくれるなら、むしろ俺にはそっちのほうがいい。

そしてキミに顔を近づけた。
三度目のキスは、もう謝らない。

ありえないほど、心臓がうるさい。


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