(A) of Hearts
ディスカード


♡♡♡♡♡♡


三度目のキスは——。
何度も唇を重ねた。


息苦しくて、なにかを奪われてしまうのではないかと思えるような…、そんなキスだった。


拒否することはできたはずなのに。
芦沢さんはその隙を与えてくれたのにも関わらず、わたしはキスを待ってしまった。


人として最悪かも。
なにをやってるのだろう。


勢いで婚約者であるアヤさんから奪うとか鼻息荒くいったのは、芦沢さんの頭が冷静になって尻込みしてくれるかなってところも少しあった。

攻撃は最大の防御というか。
だって、そんなこと本気で思っていない。

なのに、どうしてわたし——、


「あああぁぁ…」


ほかのことを考えようとしても、脈略なく頭の中に昨日のワンシーンが流れ込んできて心臓が激しく胸を打つ。

そして布団へスプレーを吹きかけた。
もう何年もやってきた一連作業だから無意識に動いてしまうけれど、もうしなくてもいいの? 信じられないよ。

芦沢さんがヒロ?
臭いといった張本人?

たしかに芦沢さんがヒロなのではないかと思うことはあったけれど、苗字が違うことや本人も否定していたから、わたしの中ではゼロだった。だから"ハイそうですか"というわけにもいかない。

簡単に切り替えられないよ。
それなのに芦沢さんのキスを全身で受けてしまって。

そのくせ、いまさらことの重大さに尻込みしてしまっている。


怖い。
普通に怖い。
そのまま流されてしまいそうだった自分を含め。

だってあのとき、アヤさんが待つ家に帰ってしまうのは嫌だという感情が溢れ出してしまいそうだった。

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