(A) of Hearts
「あ、おはようございます…っ!」
オフィスに着けば、すでに今井さんがいた。
社長秘書の今井さんは室長でもある。だけど、お局的な堅苦しさはなくて頼れる方だ。いま広報作業をしているようで資料を広げていた。
「社内報は広報部の仕事ではないのですか?」
「あーうん。今回は社長のコーナーもあるからね」
といいながらも、開いている資料は新入社員のものだ。そういえば去年わたしもこれに載った。自己紹介を兼ね、簡単な質問にいくつか答えた程度のものだったはず。
だけど今井さんはそれをすべてチェックして個人データと照らし合わせ、社長がコメントを出しやすいように作業をしていた。
こんなの社長から頼まれた仕事ではないように思う。なのにこうして社長のために朝早くから作業をしてるのだろう。
社長の秘書は3人いるのだから、室長でもある今井さんは、こんな雑用は回せばいいのに。
「室長を兼ねている今井さん自ら、こんな早くから作業する理由を、差し支えなければ教えてください」
「これが社長のためになるかどうかなんてわからないから? だけど、なにかの役に立つかもしれないでしょ? いってみれば自己満足よ」
「うわ…っ!」
なんか凄い。
「どうしたの?」
「ガツンと来ました…っ」
「どういうこと?」
「わたし、室長についていきます!」
「——館野さんが付くべき人は専務だからね?」
「ですよね…! しかし室長にも付いていきます!」
すると今井さんが笑った。
「あの! わたし、なにかおかしなこといいましたか? 申し訳ございません…っ」
「そうじゃなくて。館野さんは秘書に向いてるなと思って」
え。
「わたしが、でしょうか??」
「室長になってからというものの、そんなふうに真っすぐ目な眼差しでぐいぐい話し掛けられるの久しぶり。嫌な気もしなかったから」
そして今井さんは、ふたたびキーボードを叩く。