(A) of Hearts
「なんだ急に?」
「布団はすぐクリーニングをお薦めいたします。絶対そうしたほうがいいです。これは芦沢さんの、いや専務の身のためです。なんでしたら、いまからわたしが出してきます」
「は?」
自分では全然わからないけれど、わたしが寝た布団は臭いってヒロが言った。異臭が染み付いて寝れないって。
だからわたし誰とも暮らせない。彼氏とか結婚なんてもってのほか。
「——おい?」
「クリーニングしてください」
「おお、わかった」
「24時間できるクリーニング屋が都内に数軒あります。いますぐそこへ。お代はわたしが」
「おお」
「申し訳ございません」
「——なんなんだ?」
「言えません」
「秘書とボスのあいだには秘密を作らないほうがいいぞ。そのほうが、お互い伸びる」
「……」
こんなこといえない。
誰にも言ってないのに。
「館野?」
「——クリーニングお願いいたします」
「わかったよ」
そして煙草を灰皿に押し付けた芹沢さんは座っていたソファーから腰を上げた。わたしとの距離は1メートルちょっと。
「ゲロでも吐いたか?」
「そんな感じです」
「——まったく世話の焼ける」
「重ね重ねお詫びを申し上げます」
どんどん身の置き場がなくなってくるよ。
なぜこんなことに。