テンポラリーラブ物語
「あっ、それは」

「そうだお前が置いていったものだ。いいか、これからお前が変なことをする度にコイツを叩いてやる。こんな風にな」

 氷室は指でキティをはじく。

 キティは何も言わずゆらゆらと振り子のように揺れていた。

 なゆみは唖然とそれを見ていた。

「いいか、コイツは人質だ。お前がちゃんとしなければ、コイツは痛い思いをするんだぞ」

「やだ氷室さん。それって脅し?」

「どうなんだ。キティちゃんが俺にいじめられてそれでいいのか?」

「もちろんヤダ」

 しかしなゆみはプーっと噴出していた。

「だったら必ず俺のところに戻って来い。戻ってこなかったらコイツがどうなっても知らないからな」

 なゆみは我慢できずにお腹を抱えて笑い出した。

「何がおかしい」

「だって、そんな子供じみたことを真顔で言うんだもん」

「俺は本気だぞ」

「氷室さん、その子大切にしてあげて下さいね」

「ああ、もちろんだ」

 キティちゃんはなゆみの目の前でゆらゆら揺れていた。

 なゆみはそっとキティにキスをする。

「今私の気持ちをその子に預けました。だから氷室さんも私の気持ち大切に持っていて下さい」

「分かった。それじゃ俺の気持ちも今くれてやる」

「えっ?」

 氷室はなゆみに近づき、唇を優しく重ねた。

 なゆみは静かに目を閉じた。

 氷室の唇が柔らかくてなゆみはつい自分の唇で氷室の下唇を挟んでしまう。

「おいっ、大胆だな」

「だって大好きなんだもん。氷室さんが」

 なゆみは氷室の腕を抱きしめ、しっかり体を密着させた。

 なゆみが積極的に思いをぶつけてくるのはカリフォルニアの気候のせいかもしれないと、氷室は青い空を眩しそうに目を細めて眺めた。

 確かに美しい真っ青な空を眺めていると、心を開放させるくらいの力を感じる。

 風も一緒に受けて気持ちよく、自然に顔も綻んだ。

 目の前では自由に学生達が各々の時間を過ごしている。

 フリスビーをする者、寝転がってる者、本を読んでる者、そして氷室やなゆみたちのように恋人同士がいちゃついてキスをしている者、誰も他人の行動など気に留めず、今ある人生のひと時を楽しんでいるように見えた。

 それはずっとこの先も続くかのように──

 氷室はつぶやく。

「ハッピリーエバーアフター」

「うん、いつまでも幸せにってことだよね。おとぎ話のハッピーエンドの決まり文句。めでたしめでたし」

「ああ、そうだな、なゆみ」

 氷室はいつの間にか「なゆみ」と呼んでいた。

 そして彼女の頬を大きな手で包み込み、おとぎ話の最後のシーンにふさわしいように王子様になりきって、もう一度なゆみに甘い濃厚なキスをしていた。

Happily Ever After──




The End



─────────────────────────

最後まで読んで下さって
ありがとうございました。


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