テンポラリーラブ物語
 というのも、従業員の採用面接はほとんど専務が行い、専務の好みで雇っているからだ。

 だから結構美人な女の子がこの店には多い。

 でも、そういう女の子たちは辞めるのも早ければ、いい加減な輩も一杯だった。

 さらに気に入られてそれなりの関係を持てば待遇がよくなるポジションでもあったため、そいうことに気がついた従業員は図に乗る。

 だが、あまりにも度がひどくなると、そういう場合はあっさりと首を切られることもしばしばだった。

 従業員の入れ替わりが激しく、あまり碌なのがいないと、氷室はここで働く女性など見向きもしなかった。

 それでも長いこと残っている真面目な従業員もいる。

 その子たちはごく普通で、特にそれほど美人ということもないが、まあ不細工というほどでもない。

 そういう子たちは専務がいないときに、社長が自ら面接に赴いて、雇っていたりする。

 社長はそんなに悪い印象はないのだが、ここの専務は社長の息子の座を大いに利用し、かなりの遊び人と来ている。

 やり手のギトギトした雰囲気があるのでスーツを着れば立派なビジネスマンだが、中身は結構腹黒だ。

 氷室にしても高校時代の友達だったから、その点についてはよく知っている。

 根は悪い奴ではないのだが、本能のままに動くというような感じだった。

 誰もいなくなった仕事場で、従業員を相手にできるぐらい、男ならチャンスがあれば当たり前と言い切れる奴なのである。

 そして、自分に妻と幼い子どもが居るのにもかかわらず──。

 友達だが仕事場ではビジネス。

 氷室はその辺をよく理解していた。

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